1847年にルイ・カルティエ氏(1819~1904)がパリで創業した宝飾店は,彼の孫が店を引き継いだ頃にはもう,高度な技術と芸術美,そして革新性のすべてにおいて高い評価を得るに至りました。
硫化して黒くなることを避けられない銀に代わってプラチナを宝石に使い出したのはカルティエでしたし,こちらも当時は工業用品のみに使われていたスティール(鋼鉄)をティアラに用いたのもカルティエが最初です。
選ぶ素材に独創性が見られることに限らず,宝石を加工する技術や色使いの点においても,宝石業界でタブー視されていることにも果敢に挑戦してきたカルティエですが,それが次の新スタンダードとなるあたり,まさに時代の先端を行くブランドだからこそ為せる業でしょう。
さて,そんなカルティエで私が密かに気に入っているのは「パンテール」と呼ばれるアイコンです。
そこで今回は「パンテールにまつわる基礎知識的なもの」をまとめてみたいと思います。
中でもリングに関しては,マイヨンパンテールを中心に,その色やデザインについて詳しくみていくことにしましょう。
また,パンテールリングの購入を検討されている方には,カルティエリングのサイズ感についてまとめた章の内容が役に立つはずです。
カルティエのパンテールの歴史
カルティエのパンテールですが,その歴史は第一次世界大戦が起きた1914年にまで遡ります。
その時に誕生したのはリングではなくウォッチであり,ケースの外側を飾るだけのシンプルな女性用のものでした↓
そもそもpanthèreとはフランス語でヒョウを指し,英語だとpantherと綴ります。
ライオンと同じネコ科の肉食動物で,黄色または灰色の下地に黒い点があるのが特徴です。
似た言葉に「レオパード」がありますが,パンテールの一部にレオパードが含まれるという認識でよいかと思います。
さて,カルティエのパンテールモチーフは表現が抽象的なものと具象的なものの両方がありますが,どちらにおいてもヒョウが持つ野性的な強さと官能的なしなやかさ(猛々しくも気品あふれる肢体とも表現される)が込められていることは確かです。
前者については先の1作目がまさにそれで,そこにパンテールの顔や手足などを確認することはできません。
一方で,後者に属する1作目は1948年にウィンザー公爵が購入しており,それを送られた公爵夫人はそれをいたく気に入って,翌年にこれまた具象的なブローチを購入するに至っています↓
実に70年以上も前の作品になりますが,現代の感覚からみても見事な出来栄えです。
それもそのはずで,1920年代に入社し,1933年から30年にわたってカルティエのディレクターを務めたのは先見の明があるジャンヌ・トゥーサン(1887~1976)だったからで,彼女に付けられた愛称は「パンテール」でした。
当時の女性は多くの制約下からの解放される情勢の真っ只中にあったわけですが,そんな彼女たちが自らのアイデンティティーを確立し,新しい女性として活動していくための象徴がパンテールであり,化粧品を持ち運ぶためのヴァニティケースやリップケースも開発されています。
ちなみに,パンテールの変幻自在なアイコンはその後の各時代において表情や仕草を変えて対応してきており,今でもそれは変わりません。
もっとも,鋳造方法にロストワックスが採用された1980年代からより精度の高い形状を作ることができるようになり,90年代のCADがそれに続くでしょうが,今後もこのような新技術の登場によってこれまでにないデザインのものが生み出されることになるでしょう。
今回は一部のリングを中心にみていきますが,現在,日本向けのオンラインショップで「パンテール」と検索してみると以下のようなものが出てきます↓
2023年12月のラインナップ
リング54種,ネックレス43種,ウォッチ39種,ブレスレット37種,イヤリング20種,バッグ16種,スカーフ13種,サングラス10種,ベビー用品7種
豊富なラインナップが利用可能です。
マイヨンパンテールのリング外観と着け心地
私自身は企画展でパンテールを眺めて楽しむことがほとんどで,最近のお気に入りは国立新美術館の企画展「カルティエ、時の結晶」で販売されていたカタログだったりするのですが(先の写真はこちらからの引用),ここからはいくつか持っているものを例にその外観をみていきたいと思います。
写真はマイヨンパンテールになりますが,結婚指輪の他,普段使いもできる優れものです。
重さは4gと軽く,厚みも2mmほどのリングですが,ゴールド素材なので存在感はあります。
注目すべきは傾けたときの光り方で,すべてのリングが同じように光を反射するところは見事です。
いくつかのブロックに区切られているデザインが輝きの変化を生み出します。
ダイヤ付きのものは,その1つ1つが足の爪と肉球のように見えますが,このパンテールは抽象的なデザインなのでその名の通り(マイヨンとはフランス語で「つながり」を表す)並べて配置されているわけです↓
ダイヤ無しのものはブランド名が代わりに彫られています。
彫ったところに着色は見られず,地金の色がそのまま出てくることに注意してください(メーカーの写真だと黒い色に見えますが,実際は違います)。
着け心地としては角ばった感じがありますが,縁はすべて丸みを帯びているので刺さってストレスを感じることはありません。
丸いリングだと着けている感じがしないという方に向いています。
横から見た時の曲線はパンテールの背中部分のしなやかさの表れでしょうか。
これもまた抽象的に連なっていますが,他のパンテール(例えばウォッチのベルト部分など)にもみられる特徴です。
ダイヤ付きのものと通常のものですが,私としては前者がおすすめです。
単品で付けるならダイヤの数が4個でも良いですが,ダイヤ部分は手のひら側に回してしまえば見えなくなりますし,バランスを考えると理想はハーフエタニティに近いものです。
2連や3連,5連のリングもラインナップされているのですが,1連のものを重ねて付ければ同様の効果が期待できるでしょう。
私も複数個を別色で持っていますが,ダイヤの数が4個のものだと他のリングとバランスを取るのが難しいように感じます。
なるほど,2連や3連のリングに使われているものはすべてダイヤが10個以上連なっているのはそのためなのでしょう(とはいえ,リング2個を溝を併せて重ね付けすることが多い私です)。
あくまで個人の感覚なので,センスのある方の意見がどうなのか気になるところですが,実際,カルティエの2連,5連リングをみてみると,接しているリングとの溝部分は互い違いになっていて揃ってはいません。
重ね方はさておき,色違いを持っておくことのメリットは,気分に応じて配色を変えて楽しんだりトリニティのように見せたりができるところです↓
気分つながりで言えば,自分のラッキーナンバーなどを裏側に彫ってもらっています。
文字の大きさは本当に小さいので自己満足です。
マイヨンパンテールであっても3つも着ければ結構な重みを感じるでしょう。
その他,時計やブレスレットなどに合わせて付け替えたり,右手と左手,または人差し指と中指などと分散させることも可能です。
重ねることが多いからかサイド部分には結構傷が付きやすいですが,単品として使っていてもゴールド素材はそもそもが傷つきやすいものですし,研磨サービスなどのアフターサービスはカルティエの方で行ってもらえるわけですから,気にせずに使いましょう。
もっとも,普通に使っている分には傷を意識することはないですし,輝きが失われることもありません。
パンテール ドゥ カルティエのリング外観と着け心地
続けてパンテールドゥカルティエのコレクションから,オニキスとツァボライトガーネットを使用したリングを紹介します。
マイヨンパンテール単体だとゴールドの重みを感じることはありませんでしたが,こちらは実に28gもあり,まさに「金の指輪」といった重みがあります。
とはいえ,できる限り薄くなるように作られているので,見た目に受ける印象ほどの重さはありません↓
決して軽くはなく,かといって重すぎない丁度良さです。
なお,角ばった見た目とは裏腹に着け心地は大変に滑らかだったので最初はとにかく驚きました。
機会があれば是非一度体験していただければと思います。
パンテールの顔をどちらに向けるかで着用感や印象が変わるのが面白いところなのですが,隣の指と触れて痛いと感じたことは一度もありません。
きつめの指に入れる時はこちら向きだとか,指が細くなって回りやすい時にはこの向きにするなど,微調整が可能なのもこのリングの魅力です。
横からみた際,自分の指と相まってヒョウの全身のようにも見えます。
目元のツァボライトガーネットのグリーンと鼻先のオニキスという2つの宝石を従え,斑点はラッカー塗装といった仕様です。
太めのリングなので緩い場合もすぐに抜けてしまうことにはないのですが,サイズ選びについては章を改めてみていくことにします。
カルティエのゴールドの色を比較
カルティエのジュエリー素材ですが,時計やメガネだとスティールやチタンなどが使われることがありますが,リングはゴールドかプラチナです。
あいにく私はプラチナ製の物を所持していないので,先ほどのマイヨンパンテールを使って,ゴールドの色比較をしていきたいと思います。
まずはホワイトゴールドです↓
一見シルバーやスティールと違いが分かりづらいですが,前者は時間経過で黒っぽくなってしまう弱点を抱えている他,輝き方が異なります。
確かに独自の輝きがあるというか,白っぽさが異なるといいますか,これだけは文字では表すことができません。
一応,スティールの時計やプラチナを使ったボールペン,シルバーのネックレスと一緒に並べてみましたがこのような感じです↓
本素材はゴールドの中で特別な加工が必要になるせいか,価格は他2種のゴールドと比べるとわずかに高めになります。
上から塗り重ねる工法になるため,剥がれてくる心配をしていましたが,数年間普通に使用している分には問題は出ていません。
次にイエローゴールドですが,他の製品と比べると控えめな光り方に風格を感じます↓
金メッキのボールペンと比べると抑えた色味に映りますが,リング単独で着ければ見るからに煌びやかなので,輝きを心配することはないです↓
パンテールドゥカルティエのゴールドと比べても同じ素材であることを認識する結果となりますが,カットの仕方で別物に見えることもあります。
最後にピンクゴールドです。
こちらは他の製品でローズゴールドなどと呼ばれるものと同系統で,ロレックスのエバーローズゴールドと比べてみても大変馴染んでいるように感じます↓
イエローゴールドとピンクゴールドを比べると明らかな違いがありますが,3色重ねる際はホワイトゴールドを真ん中にすると違いはわかりやすいです。
カルティエのリングのサイズ感
私自身,リングをはめるようになったのは比較的最近のことなのですが,躊躇していた原因はサイズ選びが難しかったからです。
あまり店頭で時間をかけてサイズ選びをするのも,色々気にしてしまって結局適当になってしまうだろうということで,リングの前にゲージを購入して検討してみることにしました。
例えば,定番の指輪ゲージやカルティエのHPからリングゲージの取り寄せもしています↓
本国の表記と日本の表記が違うだけでなく,実際のサイズもわずかに異なるので注意してください。
もう少し説明を加えると,カルティエの表記はとてもわかりやすく,内周の長さを示しています。
例えば「52サイズ」となっていれば内周は52mmということです。
それに近い日本のサイズは「12号」ですが,これは52.4mmになります。
なので,どれだけ日本(JCS規格)のリングゲージで正確に測ったところで,実際どうなのかまではわかりません。
カルティエから無料で送ってもらえるゲージは日本規格のものではありませんが,紙と金属の穴を通した感じはやはり異なります。
また,購入したいリングの横幅が太めだと,着用感がリングゲージ(通常は細めでしょう)の着用感とこれまた異なることも覚えておきましょう。
加えて,リングサイズというのは測る時間や季節(気温)に体内の水分量や太り具合なども影響してくるため,今この瞬間にベストサイズを選べたからといって,数時間後数ヶ月後はどうかというとベストマッチとはいかないものです。
沢山気にするべき点があってくらくらしてきますが,リングの使用頻度を高くしたいことを最優先にすると,私のアドバイスとしてはきつめを避けるのが一番となります。
つまり,以下のような基準でリングを選ぶということです↓
- 季節が夏ならばピッタリ,冬ならばゆるめを選ぶ
- むくみがひどい時間に合わせてギリギリサイズを選ぶ
こうした計測はお店ではできないので,先ほどのリングゲージが大活躍します。
もちろん,後でメゾンに持って行ってリングサイズも変えてもらえますが,リングにダメージが出るのは明らかかつ手間ですし,何より,ピッタリに合わせたところで1年間を通してずっとフィットすることはありえないわけです。
とはいえ,先の基準で選ぶとゆるゆるの時期が発生してしまうことが避けられません。
私の場合,一日の朝と夜とで1~2サイズ,季節が変わるとこれまた1~2サイズの差が生じています。
そんな私がたどり着いた結論はリングアジャスターを使うことでした。
出番は乾燥して気温が低くなりがちな冬になります。
これはらせん状のシリコンパーツを指輪に巻き付けることで摩擦力をアップさせ,指輪を外れにくくするためのものです↓
確かに見た目は多少劣ることになりますが,年がら年中これを装着するわけではありませんし,きつくてはめられなくなることに比べれば明らかにプラスでしょう。
3巻きくらいでも重いリングも回らなくなりましたし,フィット感は良好です。
このアジャスターを使えば,太い指輪を別の指に付けることもできるようになります↓
感覚的には4サイズくらい下までならはまるようになるはずです。
右手と左手を変えるだけでも1サイズくらいは変わりますから,広い指に合わせられるのではないでしょうか。
結婚指輪を初めて付けるような方はすぐにリングサイズに悩まされることになると思います。
そこで即座にお店に駆け込んで調節してもらっても,また数ヶ月後に問題は起こるはずです。
ならば,最初の1年くらいはアジャスターを併用することにして様子をみてみるのはいかがでしょうか↓
カルティエのパンテールを購入するにあたって
カルティエのパンテールですが,あくまでオンラインショップの在庫状況を基準にして言うと,ダイヤ付きの在庫が少ないのがたまに瑕です。
私もダイヤ12個のものが欲しくて1年間ちょくちょくみていたのですが,特に男性サイズで希望するものを見つけられませんでした。
さすがに上の写真で示したような状態にはなりにくいですが,結婚指輪やイベントなどで突然購入しようと思った際,すぐ買えない可能性があることは頭の片隅に留めておきましょう。
実際,私の友人は在庫がなくて別の物を購入していました。
中に文字を彫ることができますが,本当に控えめなサイズで目の状況によっては刻印を読み取れないこともありますので,オンラインで購入する場合は文字入れをあえてしないのも1つ手です。
文字入れは後からもできるので,少し使ってクリーニングを頼む際に併せて行うのが良いと思います。
オンラインの場合,文字入れをすると返品もできませんので。
ちなみに,オンラインショップのみの購入でも年末にホリデーギフトが送られてきましたし,アフターサービスにも遜色はありません(購入時に何か貰えるようなことはありませんが)↓
余談ですが,このフレグランスキャンドルは大変品の良い香りがします(パンテールのデザインが入っていたりもします)。
まとめ
以上,カルティエのパンテールの歴史を辿るところから始まり,実物の紹介としてマイヨンパンテールとパンテールドゥカルティエのリングの着け心地やデザインを述べてきました。
カルティエに限りませんがリングのサイズ選びは非常に難しく,実店舗で試着したところで万事解決とならないところが厄介です。
リングゲージを用意して自分の指サイズをモニタリングする期間が長くなるほど,より正確なサイズ選びが可能になりますが,悩んだら1サイズ上でリングアジャスターの併用も考えてみてください。
ところで,購入後数日経ったタイミングでクリーニングでもしようかと,取扱説明書にあったようにブラシで擦って早速傷を付けてしまったのは苦い思い出です(なんならマイクロファイバーで拭っただけでも線傷が付くはずです)↓
今では時計用の洗剤で洗ってマイクロファイバークロスで拭くだけで落ち着きましたが,傷が付いたところで,お店に持っていけば研磨してもらえるので問題はありません。
カルティエは動物のジュエリーを得意とし,今回紹介したパンテール以外にも鳥やヘビやワニなどをモチーフにした作品があります。
伝統的な技術を洗練するだけでなく,新しく登場した技術や時代背景に合わせた柔軟性で,これからも革新的な作品が生み出されることになるでしょう。
そんな伝統に触れる意味でもパンテールはおすすめです。
今回は紹介しませんでしたが,パンテールのウォッチもリングに合わせるのにピッタリなので,リングを揃えた次はそちらも検討してみてください。
今回の記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。