もともとは階級を表すこともあった傘ですが,トーマス・フォックスがロンドンで傘を作って売り始めたのは1868年のことです。
その後,お店はディクソン家に譲渡されるわけですが,その話とはまた別で,ほぼ同時期にサミュエル・フォックスという職人がスチール製の傘骨を発明し,これまではクジラの骨が当たり前だった傘にそのフレームが採用されるようになります。
それから150年以上が経ちましたが,今でもフォックスアンブレラは高品質な傘を作り続けているわけです。
今回は,「フォックスアンブレラの魅力と修理」についてまとめると同時に,おすすめのショップを紹介させてください。
フォックスアンブレラとビニール傘の違い
折り畳み傘はさておき,普通の傘については「ビニール傘で構わない」と考えるか否かで,フォックスアンブレラに対する評価は大きく異なるはずです。
ビニール傘派の方であれば,フォックスアンブレラにはほぼ魅力を感じないか,感じることがあっても所持するまでには至らないでしょう。
というのも,ビニール傘派の方のほとんどは,傘は紛失するもの,またはすぐに壊れるものだと思っているからです。
確かに,コンビニや職場の傘立てに入れておいたら何者かに盗まれてしまったという話はよく耳にします。
それらは第3者の手による明らかな犯行のわけですが,電車やバスに置き忘れることは明らかに自分自身の責任であり,そんなことを経験してしまえば,数万円もする傘を使おうなどと思わなくなるのは無理のないことです。
その他,日本では台風が多く発生するので,風速が15mを超えるような日に傘を差してしまえばすぐに壊れてしまうでしょう。
本来,風が強くなると,雨粒が横から風に運ばれてくるので傘はほとんど用をなさず,傘以外のレインコートのような雨具を使うべきなのですが,傘の扱いを学校で習うことはありません。
ニュースなどを通じて,人に傘の先端を向けるようなことは自然と学べても,傘を閉じた状態のままくるくる回して水を切ったり,使い終わって部屋で開いて乾かすことをしなかったりするわけで,どちらも傘のフレームを傷める原因になります。
- 使用する前に傘を2~3度振って使う
- 強風時には使わない
- 使用後は手で2~3度開閉して水を切る
- 使用後は開いて風通しの良い場所で陰干しする
- 折り目に沿ってたたむ
私自身,こういったルールが存在することについては,フォックスアンブレラの傘を買うようになって初めて知ったことでもありますし,逆に,同社の傘を使うようになったからこそ気にするようになったわけです。
フォックスアンブレラの魅力とは
ですが,フォックスアンブレラにはそういった手間の煩わしさを補い余るほどの魅力があります。
見た目と品質がほとんどですが,ここでいくつか紹介しましょう。
どのようなものかイメージが浮かばない方はまず最初に公式サイトを覗いてみてください。
見た目が美しい
まずはその見た目ですが,紳士の国イギリス出身ということで,傘を閉じたときの様子はさながら杖のようです。
私のものはシャフト(軸)の部分が金属で細いタイプのものですが,中にはハンドルとシャフトが1つの木で作られているなど,よりステッキに近づけたものもラインナップされています。
私が購入した時の様子はこのようなもので,バラのような赤いリボン付属のケースも付いていました。
一目見ただけでも,とにかく細くスマートなことに気づくことでしょう。
さて,フォックスアンブレラを使い終わって何の考えもなしに巻き上げればそれほどでもありませんが,しわやフレームの挟まりなどが生じないようしっかりと巻き上げるようにすることで,いつまで経っても購入時の細さを保ち続けてくれます。
加えて,持ち手部分も良い材質の木が使われており,私はマラッカ藤を選びました。
購入時はこのように白っぽかったですが,数年も経てば見事な飴色へと変わってきます↓
ハンドル部分の木材は複数種類から選ぶことができますし,変わり種としては,動物を模した金属のものも選択可能です。
全体的には長さもあり,すらっとしています。
なお,上で挙げた公式サイトだと肩の上に載せている方の写真があったり,ブラックキャブ(英国のタクシー)を傘で止める方もいたりするそうです。
高品質である
現在では品質の高さを意識する機会は少なくなりましたが,それでも,多くの高級品に対しては「ああ,これは良いものだ」と感じる瞬間があるのではないでしょうか。
職人の技術に感動することを日々大切にしたいと考えている方は,フォックスアンブレラの生地が水をとてもよく弾くことに驚くはずです。
素材はポリエステルなのですが,高品質なポリエステルを使っているのでしょう。
1947年には当時の最新素材であるナイロンを使って,世界初の化学繊維の傘を生み出したフォックスアンブレラです。
そして,もう1つ。
この生地に雨粒が当たったときの音がとても心地良いことを,ここで皆様に声を大にしてお伝えしたいと思います。
ボンッ,ボンッと,水の粒が弾力で跳ね返される音で,これに魅了されたのはもちろん私だけにとどまらないようで,世の中ではこれを「フォックスサウンド」などと称することを知りました。
それもまたお洒落な物言いですね。
フォックスアンブレラの欠点とは
フォックスアンブレラの欠点を言うとしたら,やはり値段が高いところが挙げられるでしょう。
どれも数万円するのが当たり前で,最近は物価高ということもあって,よくある価格帯のものでも3~4万円するのが当たり前の時代になりました(以下で示すお店のように1~2万円で安く買えるところがあったり,十万円を優に超える商品も存在したりもしますが)↓
ビニール傘が1本500円だとすると,数十本は買えてしまう計算です。
ですが,私なら,これから死ぬまでの間に毎年ビニール傘を買い替え続けるよりも,1本のフォックスアンブレラを使い続ける人生を選びたいと思います。
「それなら,壊れたときはどうするんだ!」
というお叱りの声が聞こえてきますが,実は修理ができるので心配ありません。
これは魅力の章で挙げた項目についても同様で,傘を止めるネームバンドと呼ばれる部分が故障しても取り替えてもらえますし,生地が切れれば張り替えてもらえますし,撥水性が悪くなったら効果を高める加工を施してもらえます。
詳しくは次章でまとめましょう!
フォックスアンブレラの修理について
フォックスアンブレラですが,修理をしてもらえるのも魅力の1つだと言えます。
国内ですと,ヴァルカナイズロンドンが有名で,フォックスアンブレラの修理を専門に行う工房と提携しているのですが,修理に使用されるのは,もちろん純正パーツです。
生地などで同様のものが用意できない場合は現行品を使用することになりますが,店舗に持ち込む以外に郵送でも依頼できるので助かります。
メニューは以下のようなものがあるので参考にしてください↓
- ネームバンド交換
- 骨交換
- 生地の張替え
- サビ取り
- 石突交換など
生地の張替え以外は数千円で済む場合が多く,大変良心的だと言えるでしょう(そもそも,修理していただける時点でありがたいのですが)。
ちなみに,正規品であれば,他店で購入したものでも修理してもらえるということで,あらかじめ電話やメールで問い合わせておけば,どのような修理が可能なのか教えて貰うことができます。
ところで,フォックスアンブレラのネームバンドですが,私が購入したものはゴム製で伸びるものだったため,昔私は「すぐにダメになってしまった」と勘違いしてしまったものです。
傘の生地と同じではないゴムタイプのバンド(E.BANDと呼ばれるもの)の場合,実は2周傘に巻きつけてギリギリ閉じるようになるのが真の姿,完成形とも言われています。
最初に購入した時は太めのきれいな長方形をしていますが,これが徐々に細く伸びてくるわけです↓
長年使っていて,バンドの先端部が傘の中途半端な位置にしか来ないようになってしまった際には,このように,途中で縛るようにして止めてみてください↓
余談ですが,修理して,傘の生地と同じもの(M.BAND)にしてもらうことも可能です。
その場合,ゴムのものと違って伸びることがなくなるため,より安心できるかもしれません(細かいことを言うと,ゴム製バンドはタブ付きのものと標準タイプの2つに分かれます)。
まとめ
以上,フォックスアンブレラの魅力を中心にまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
購入時に魅力のピークがあるわけではなく,修理を繰り返しながら,長きにわたってその魅力を維持し続けられるのがこの傘の最大の長所です。
外観や質を精査すれば,値段が高いのも納得だと思います。
最後に残念なお知らせですが,現在のところ,修理できる国内の工房はヴァルカナイズロンドンのみに存在するだけとなってしまいました(昔は伊勢丹や和光でも国内修理を頼めましたが,コロナ禍が明けた今,修理サービスを修了しています)。
そのため,その素晴らしいサービスを長く続けてもらえるよう,贈り物をするときはまず最初にヴァルカナイズロンドンで探してみるように心がけています。
他に安い店は存在するでしょうが,これから長くフォックスアンブレラを使いたいという方であれば,購入場所はここ一択だと覚えておきましょう。
実際,ビスポーク(パーツを取り寄せるなどしてオーダーメイドできるサービス)も行ってもらえるようですし,スタッフの方は物知りで,私も最初,知らなかったことを色々と教えてもらいました。
近くに店舗がある方(東京・名古屋・大阪在住の方)は,是非一度,伺ってみてください↓